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オントロジー・ナレッジグラフ・RAG・GraphRAGの違いと選び方

パステルのリング惑星と軌道を背景に「オントロジー・ナレッジグラフ・RAG・GraphRAGの違いと選び方」を配置した記事カバー パステルのリング惑星と軌道を背景に「オントロジー・ナレッジグラフ・RAG・GraphRAGの違いと選び方」を配置した記事カバー

この記事で学べること

  • オントロジー、ナレッジグラフ、RAG、GraphRAGがそれぞれ管理する対象
  • 契約の例で見る、用語の定義・事実の記録・文章の検索・関係のたどり方の違い
  • 生命科学、Web検索、社内検索、供給網分析での使われ方
  • 答えのある場所と、何段階のつながりを調べるかに応じた構成の選び方
  • AIが検索先を選ぶ場合に、人が管理する権限と根拠

オントロジー・ナレッジグラフ・RAG・GraphRAGの役割の違い

オントロジー(用語の意味や関係を共通のルールとして定義するもの)と、ナレッジグラフ(会社や契約などの情報を、つながりとともに記録したもの)は、知識を整理する役割を担います。たとえば、「顧客とは何か」を決めるのがオントロジー、「A社が契約123を持つ」と記録するのがナレッジグラフです。

RAG(外部の情報を検索し、その内容をもとにAIが回答する方式)は、整理された情報を回答に使うための仕組みです。GraphRAG(対象同士のつながりや、そのまとまりを検索に使うRAG)は、その一種に当たります。

選ぶ際の基準は、答えがどこにあり、どの情報をたどる必要があるかです。契約書の一節を探す場合と、子会社の契約まで調べる場合では、必要な構成が異なります。最後まで読むと、契約の例と実際の利用事例をもとに、自分の業務に必要な仕組みと運用上の確認事項を判断できます。

契約の例で見る、用語の定義から回答までの役割分担

会社の契約を調べる場面で、それぞれが何をするのかを見てみます。

オントロジーが決めるのは、用語の意味と関係のルールです。「顧客」や「契約」が何を指すかを定義することで、部署による解釈のずれを減らします。

情報科学で広く参照されるTom Gruberの説明でも、オントロジーは、ある分野で使う概念とその関係、概念同士の違いを定義するものです。意味だけでなく、形式的な制約(コンピューターでも扱える形で明示したルール)も定め、用語を一貫して使えるようにします。[1]

ナレッジグラフが記録するのは、個別の事実とつながりです。「A社が契約123を持つ」「B社はA社の子会社」といった情報を、その出所とともに記録します。ここでいうグラフは、会社や契約などの対象を点、その関係を線として表すデータの構造です。

ナレッジグラフに関する研究の総説でも、記録形式に加えて、扱う情報の種類、同じ対象の見分け方、情報の背景、品質の管理が主要な論点として挙げられています。[2]

**RAGは、検索した情報を使って回答を作ります。**正式名称はRetrieval-Augmented Generationで、日本語では「検索拡張生成」と呼ばれます。質問に関係する情報を検索し、大規模言語モデル(大量の文章を学習し、質問への回答などを生成するAI)へ渡す方式です。

2020年の原著論文では、モデルが学習した知識と、Wikipediaの文章を探すための索引(必要な情報を検索しやすく整理したもの)を組み合わせました。[3] 契約の例なら、契約123や解約規定の該当箇所を探し、その文章を回答の根拠に使います。RAGは特定の製品名ではなく、このような検索と回答生成を組み合わせる方式の名前です。

**GraphRAGは、対象同士の関係やまとまりを使って回答の材料を集めます。**たとえば、A社から子会社、その子会社の契約へとつながりをたどり、関連する情報を探します。このように関係を順にたどる道筋を、関係経路と呼びます。

ただし、GraphRAGには複数の方式があります。Microsoft Researchの方式では、文章から会社や人物などの対象と、その関係を取り出します。次に、関係の近い対象をグループにまとめ、あらかじめ要約を作成します。

質問に答える際には、特定の対象の周辺を調べる検索と、文書群全体に共通する主要なテーマを調べる検索を使い分けます。[4][5] 既存の業務ナレッジグラフを直接たどる方式もGraphRAGと呼ばれるため、導入時には「どの関係を使うのか」「誰がその関係を作るのか」「どう検索するのか」の確認が必要です。

同じ「A社の契約」を扱っても、4つの役割は次のように分かれます。この表は本記事で使う整理であり、特定製品の公式分類ではありません。

概念管理するものA社の契約での例直接は担わないこと
オントロジー用語の意味、種類、関係、制約顧客、契約、子会社の意味と、「顧客が契約を保有する」という関係を定義するA社の最新契約を登録すること
ナレッジグラフ個別の対象、属性、関係、出所A社が契約123を保有し、B社がA社の子会社であるという事実を記録する回答文を生成すること
RAG質問に関係する情報の検索と回答への受け渡し契約123と解約規定の文章を探し、根拠とともに回答へ渡す文書にない親子会社関係を保証すること
GraphRAG関係経路や文書群のまとまりを使う検索A社から子会社、各契約、関連事故までをたどり、グループ全体のリスク材料を集める抽出した関係を無条件に正式な事実と認定すること
この表は横方向にスクロールできます。キーボードでは、表にフォーカスして左右の矢印キーを使用してください。

オントロジーだけを作り、個別データをまだ登録しない構成もあります。形式的なオントロジーを持たない小規模なナレッジグラフや、グラフを使わないRAGも成立します。

Microsoft方式のように検索専用のグラフを文章から作るGraphRAGもあります。したがって、GraphRAGを採用しても、承認済みの企業ナレッジグラフまで完成するとは限りません。

生命科学・Web検索・社内検索・供給網分析での利用例

共通の用語を決める研究基盤から、取引先のつながりを調べるサービスまで、用途によって必要な役割は変わります。導入済みの事例と開発段階の事例を比べてみます。

Gene Ontology:生物学の共通用語と関係の定義

Gene Ontology(遺伝子の働きなどを共通の用語で表すための知識基盤)は、遺伝子産物の情報を整理します。遺伝子産物とは、遺伝子の情報をもとに作られるタンパク質やRNAのことです。分子としての働き、関わる生命活動、細胞内の場所を共通の用語で表します。

オントロジーが定義するのは、生物学的な種類と関係です。個々の遺伝子産物には、根拠資料と証拠の種類を添えた注釈(その遺伝子産物と共通の用語を対応付ける情報)が付けられます。

公式サイトは、大規模な分子生物学・遺伝学の実験を計算機で分析する基盤として利用されていると説明しています。[6]

共通の定義に加えて、個別データとの対応、根拠、更新手続きも継続して管理します。それにより、研究機関や生物の種類が異なっても、分析結果を比較しやすくしています。

Googleのナレッジグラフ:同じ名前を持つ対象の識別

Googleは2012年、日本語検索にもナレッジグラフを導入しました。同じ名前が映画、都市、人物など複数の対象を指す場合に候補を分け、対象の要約や関連作品を検索結果に表示する用途です。[7]

入力された言葉が何を指すかを見分けたうえで、属性(対象の特徴を表す情報)や他の対象との関係を調べられます。これが、単に同じキーワードを含む文章を探す検索との違いです。

Morgan Stanley:社内文書の検索と回答品質の評価

OpenAIの事例によると、Morgan Stanley Wealth ManagementはAI @ Morgan Stanley Assistantを運用しています。金融アドバイザーが社内知識を検索するための仕組みです。

同社は実務質問を使った評価、専門家による回答確認、日次の回帰テスト(以前は正しかった回答が更新後も正しいかを調べる検査)を行っています。文書群の拡大に合わせた検索方法の調整も続けています。[8]

文書を検索できるようにした後も、回答の品質を確かめる作業が続きます。質問に合う文書が見つかるか、回答が根拠に沿っているか、更新後も正しく答えられるか。こうした評価を続けることが、RAGを実務で使えるものにします。

リネア:複数段階の取引関係を調べるGraphRAGの開発

AWSが2025年に公開した事例では、株式会社リネアが企業情報、取引関係、ニュースなどをグラフへまとめ、自然言語(日常使う言葉)で質問し、複数段階の供給関係を調べられるサービスを開発しています。

企業間の関係をたどるのはAmazon Neptune(つながりを記録・検索するAWSのデータベースサービス)です。質問の解釈と回答には、Amazon Bedrock(生成AIのモデルを利用するためのAWSのサービス)を使います。

公開時点では開発段階で、2027年度の本格導入へ向けた取り組みと説明されています。[9]

この調査では、1社の説明文が見つかるだけでは足りません。直接の取引先、その先の供給元、関連ニュースまで、つながりをたどる必要があります。質問と文章がどれだけ似ているかに加えて、企業間の関係も検索に使う理由がここにあります。

答えのある場所に応じた選定基準

導入判断では、データ形式より先に「答えはどこにあり、何をたどれば到達できるか」を確認します。次の表は、最初に選ぶ候補と見送る条件をまとめたものです。

概念向く用途向かない、または優先度が低い用途
オントロジー部門ごとに異なる用語をそろえる、複数システムで同じ意味と制約を再利用する、明記されていない分類を規則から導く狭い範囲の文書検索、対象領域の定義が頻繁に変わり管理責任者もいない試行、単純なタグ付けで足りる分類
ナレッジグラフ取引、依存、所有、影響などの関係を何段階もたどる、同じ対象の別名を統合する、根拠付きの関係を共有する1表で十分な一覧、定型的な集計、関係を保守する担当と出所情報を用意できない用途
RAG規程、マニュアル、契約、研究資料など、答えの根拠が文章中にある質問、更新される社内文書の検索、出典付き要約正確な集計や計算、データベースへの更新処理、文書群全体を漏れなく比較する質問、関係経路そのものが答えになる質問
GraphRAG答えが複数文書へ分散する調査、何段階ものつながりをたどる調査、文書群全体の主要テーマ、関係と原文の両方を根拠にする分析小さな文書群の単純な検索、応答の速さと費用を最優先する画面、対象や関係を安定して取り出せない資料、専門家が結果を確認できない高リスク判断
この表は横方向にスクロールできます。キーボードでは、表にフォーカスして左右の矢印キーを使用してください。

MicrosoftのGraphRAGの利用上の注意をまとめた公式資料では、人物や組織などの対象が多く登場し、共通のテーマを持つ文書の集まりを適した用途として挙げています。複数の文書をまたいで調べたり、共通するテーマを分析したりする使い方を想定していますが、専門家による回答の確認と、根拠をたどれることも求めています。[10]

正確な売上集計や在庫の更新には、それぞれに適した処理を使います。数値を漏れなく集計するなら、データベース(売上や在庫などのデータを保存し、検索・集計する仕組み)への問い合わせが基本です。在庫数などを変更するなら、操作する人の権限と承認を確認する業務処理が必要になります。

オントロジーやRAGを導入しても、こうした処理の代わりにはなりません。生成AIを使わない方が簡潔で、結果も確かめやすい処理は、そのまま使う方が適切です。

小さな構成での検証と、グラフ追加の判断基準

構成は、使いたい技術ではなく代表的な質問から決めます。次の判断表は、試作時の出発点として使えます。

代表的な質問最初に試す構成追加を検討する条件
「休暇申請の期限はいつか」キーワード検索またはRAG表現の違いで該当規程を見つけられないなら、検索方法と、文書のタイトルや日付などの手掛かりを改善する
「この障害に関係するサービスと担当チームはどこか」ナレッジグラフ、またはグラフ検索を含むRAG障害記録の文章も根拠に含めるならGraphRAGとして統合する
「顧客という語が部門ごとに何を指すか」用語整理と小さなオントロジー共通定義を複数システムへ反映するなら、同じ対象を示す共通番号、既存番号との対応表、変更手続きを加える
「調査報告全体に共通する論点と関係者は何か」通常のRAGを基準として評価よく似た数件の文章だけでは論点を拾い切れないなら、関係者や話題のまとまりも使うGraphRAGを比較する
「先月の製品別売上はいくらか」データベースの集計説明文を加える場合だけ、確定した集計結果を生成AIへ渡す
この表は横方向にスクロールできます。キーボードでは、表にフォーカスして左右の矢印キーを使用してください。

RAGで必要な情報が見つからない場合は、まず検索の方法を見直します。文書をどの単位に分けるか、タイトルや日付を検索の手掛かりに使えるかを確認します。キーワード検索と意味類似度(言い回しが違っても内容がどれだけ近いか)を使う検索の併用や、検索結果の並べ替えで改善できる場合もあります。

グラフの追加を検討するのは、それでも「必要な文章は見つかるが、対象同士のつながりが分からない」「文書群全体の傾向を尋ねても、一部の内容しか回答されない」と確認できたときです。

オントロジーも、業務で繰り返し出てくる一つの質問から始められます。その質問に必要な用語の種類、関係、ルールを定め、複数の業務やシステムで使う定義から共有していきます。最初から全社の概念を定義するよりも、定義を管理する費用と、共通で使えることの利点を比較しやすくなります。

MicrosoftのGraphRAGも、検索用の索引を作る費用や、バージョン変更の影響に注意し、小さく始めるよう案内しています。[11]

既存のAWS Context Ontology Acceleratorの記事は、AWS上で意味と関係を扱う構成を説明しています。Palantir Ontologyの記事は、関係の参照だけでなく、業務状態の変更、権限、記録までを扱います。本記事は特定製品の実装ではなく、質問の形から必要な役割を選ぶことに範囲を限定しています。

まとめ:業務の質問を起点とした構成選びと、人による根拠・権限の管理

導入の出発点は、実際の業務で答えたい質問を一つ選び、通常の検索やRAGでどこまで答えられるかを確かめることです。答えが文章にあるのか、複数のつながりや文書群全体の傾向にあるのかを見極めれば、GraphRAGを追加する必要性も、集計専用の処理を使うべき場面も判断しやすくなります。

AIが検索先を選ぶ場合も、情報の根拠と、誰が閲覧・変更できるかを管理する責任は人に残ります。関係の記録を更新する担当者、根拠をたどる方法、権限の管理、回答を継続して評価する体制がそろう範囲が、導入を広げる目安です。

参考文献

  1. Tom Gruber, Ontology, 2009
  2. Aidan Hoganほか, Knowledge Graphs, 2020年
  3. Patrick Lewisほか, Retrieval-Augmented Generation for Knowledge-Intensive NLP Tasks, 2020年
  4. Darren Edgeほか, From Local to Global: A Graph RAG Approach to Query-Focused Summarization, 2024年4月
  5. Microsoft, Query Engine
  6. Gene Ontology Consortium, The Gene Ontology Resource
  7. Google, ナレッジグラフ “モノ”を認識する検索エンジンに向けて, 2012年12月5日
  8. OpenAI, Morgan Stanley uses AI evals to shape the future of financial services
  9. Amazon Web Services, 株式会社リネア様のAWS生成AI事例:GraphRAGで実現するサプライチェーンリスク検知と管理への取り組み, 2025年10月24日
  10. Microsoft, GraphRAG: Responsible AI FAQ
  11. Microsoft, GraphRAG

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