Palantir Ontologyとは:業務データと判断・操作をつなぐ仕組み
この記事で学べること
- 一般的なオントロジーと、Palantir Ontologyの役割の違い
- 業務データ、計算、変更手続き、権限、利用画面のつながり
- データベース、ナレッジグラフ、RAG、AIの実行環境との使い分け
- 試行導入で確認したい、業務対象・変更手続き・権限・記録の4つの観点
Palantir Ontologyの役割:業務データと操作の共通基盤
Palantir Ontologyは、業務データと、データを使った判断・操作を共通の仕組みで扱うための基盤です。設備や注文などの対象、その関係、計算、変更手続き、権限、操作履歴を、一つの業務モデル(業務上の対象やルールを整理したもの)に結び付けます。
設備が故障しそうなとき、点検日を前倒しするには、設備の状態を確認するだけでは足りません。必要な部品があるか、誰が日程を変更できるか、どの条件なら変更してよいかも確認する必要があります。変更後には、誰がいつ、何を変えたのかを残します。
Palantirは、Ontologyをoperational layer(業務上の意思決定と操作を支える運用層)と説明しています。[3] データを見て終わりではなく、判断した内容を業務に反映するところまで支える仕組みです。
この記事では、構成要素と設備保守の例を通じて、ナレッジグラフ(対象同士の関係をつないで表すデータの仕組み)やRAG(検索した情報を生成AIの回答に利用する仕組み)との違いを整理します。そのうえで、自社の業務にPalantir Ontologyが必要かを考えるための観点を紹介します。
一般的なオントロジーとPalantir Ontologyの違い
情報科学におけるオントロジーは、ある分野の概念、概念同士の関係、成り立つ条件や制約を明示したものです。業務でいえば、「設備とは何か」「設備はどの拠点に属するか」といった共通の定義に当たります。
言葉の起源は、哲学における「存在についての理論」です。AI研究では1980年代から知識システムの構成要素として使われ、1990年代には「概念化の明示的な仕様」という定義が広まりました。[1] つまり、対象をどう捉え、どう分類するかを、他者やコンピュータと共有できる形にしたものです。
W3C(Web技術の標準化団体)のOWLは、概念や関係を論理的に表す標準言語です。定義した知識に矛盾がないかを確認したり、明示されていない知識を推論したりできます。[2] この文脈での主な役割は、「何が存在し、どう関係するか」の定義です。
Palantir Ontologyは、その定義を業務の判断や操作にも結び付けます。公式ドキュメントでは、統合済みのデータセット、仮想テーブル(元データを参照して表として扱う仕組み)、モデルと、設備・製品・注文・取引などの実世界の対象をつなぐ運用層と説明されています。[3]
学術的なオントロジーをそのまま製品にしたものと捉えるより、データの意味や関係を定義するモデルに、業務アプリケーションと変更処理を接続した設計と考えると理解しやすくなります。
Ontologyの構成要素:対象・関係・計算・操作
Ontologyでは、まずObject、Property、Linkで業務上の対象と状態、対象同士の関係を表します。そこにFunctionによる計算・判定と、Actionによる変更手続きを結び付けます。
公式ドキュメントは、Object・Property・LinkをSemantic Elements(対象の意味や関係を表す要素)と呼んでいます。Function・Actionなどは、計算や操作を担うKinetic Elementsです。[3]
| 要素 | 役割と例 | 保守で確認したいこと |
|---|---|---|
| Object(業務上の対象) | 設備、注文、顧客などを表す。対象の種類はObject Type、個々の対象はObjectとして扱う | 同じ対象を識別する番号や基準が明確か |
| Property(対象の属性) | 設備の状態、在庫数量、注文の期限などの情報を表す | 意味、単位、更新元が統一されているか |
| Link(対象間の関係) | 注文と顧客、設備と拠点などをつなぐ | 関係の根拠や有効期間を追跡できるか |
| Function(計算・判定の処理) | リスクの計算、条件の判定、条件を変えた試算などを行う | 入力、バージョン、例外条件を検証できるか |
| Action(変更手続き) | データの作成・更新、承認、外部システムとの連携などを行う | 誰が、どの条件で、何を変更できるか |
| 権限制御 | 対象や属性の閲覧、操作の実行を制御する | 閲覧権限と変更権限を分けられるか |
Object・Property・Linkを参照すれば、「どの設備が、どこにあり、どんな状態か」を確認できます。FunctionとActionは、その設備に対して何を計算し、どのような変更を認めるかを定義します。
Action Type(変更手続きの定義)には、入力パラメータ(実行時に渡す値)、Ontologyへの変更内容、通知などの付随処理、実行条件を設定します。同じActionのロジック(処理のルール)を、複数の利用者向けアプリケーションから再利用できます。[4]
設備保守の例:状態確認から変更記録までの流れ
Palantir Ontologyの特徴は、状態の確認、選択肢の比較、権限確認、変更、記録を、一続きの業務として扱えることです。一般的な意味層(データの意味や用語を共通化する仕組み)との違いは、この操作まで含む範囲にあります。
公式の構成要素を、本記事では次の4段階に整理します。これは説明のための分類です。
- 現在の状態の確認:対象の属性や関係から、判断に必要な情報を取得します。
- 選択肢の比較:計算機能や仮の条件を使い、候補ごとの影響を比べます。
- 条件と権限に基づく変更:必要な条件と権限を満たした場合に、変更手続きを実行します。
- 変更記録の確認:操作履歴から、誰が、いつ、何を変更したかを確認します。
Operational application(情報の表示に加え、判断やデータの書き戻しまで行う業務アプリケーション)は、Ontologyの現在状態を表示します。Scenario(仮の条件で変更案の影響を試す仕組み)で選択肢を検討し、Actionで決定を反映できます。[5]
Actionのsubmission criteria(変更の実行を認める条件)には、利用者、入力値、対象Objectの状態などを組み合わせて設定できます。条件を満たさない変更は拒否されます。[6]
たとえば、保守部門が「停止リスクの高い設備の点検日を前倒しする」と判断する場面を考えてみます。
まず、設備、故障、作業指示、部品在庫をObjectとLinkでつなぎます。Functionがリスクと変更の影響を計算し、担当者は候補日を比較します。
次にActionが、設備は稼働中か、部品は確保済みか、実行者に承認権限があるかを確認します。条件を満たした場合に、作業指示を更新します。Action Log(Actionの実行記録)を有効にすると、成功したActionの決定と編集対象を関連付けて残せます。[7]
データの意味、計算、操作、権限制御が同じ業務定義を参照することが、この設計の利点です。利用者やAIエージェント(目的に応じてツールを使い、処理を進めるAI)ごとに、同じルールを別々に実装する必要を減らせます。対象の関係をグラフで表せるかどうかだけでは、この利点は判断できません。
データベース・ナレッジグラフ・RAGとの使い分け
Palantir Ontologyは、データベースや検索などの技術を、一つの機能で置き換えるものではありません。それぞれが何を担うのかを分けると、必要以上に大きな構成を選ばずに済みます。
| 技術・仕組み | 主な役割と扱うもの | 単独では扱いにくいこと |
|---|---|---|
| データベースとスキーマ(データ構造の定義) | 保存先や形式を決める。テーブル、項目、データ型、入力制約を定義する | 複数システムに共通する業務用語や判断手続き |
| Semantic Layer(分析用の指標や用語を共通化する仕組み) | 分析で使う指標、分類、集計方法をそろえる | 業務データの変更実行と操作記録 |
| ナレッジグラフ | 実際の対象とその属性、対象同士の関係を表し、関係をたどれるようにする | 誰が、どの条件で状態を変更できるかの管理 |
| RAG | 文書の断片やベクトル(意味の近さを数値で表したもの)を使い、質問に関連する情報を検索して回答に利用する | 正式な業務上の関係の定義、データ更新、操作権限の管理 |
| Palantir Ontology | 対象、関係、計算、変更手続き、権限を結び付け、状態の理解から管理された変更までを支える | 元データの品質改善や、業務責任者の合意形成そのもの |
| AIの作業ルールと実行環境 | 指示、ツール、評価、承認、実行環境を整え、AIの処理を安定させる | 組織全体で共有する業務概念と実データの統一モデル |
文書の検索と要約が目的なら、RAGから始める方が構成を小さくできます。複数システムにまたがる関係をたどることが目的なら、ナレッジグラフと既存アプリケーションの組み合わせも候補になります。
Palantir Ontologyの追加価値が現れるのは、複数の業務で、同じ対象・関係・計算・変更手続き・権限制御を再利用する必要がある場合です。
関連するAWS Context Ontology Acceleratorの記事では、AIエージェントにデータの意味や関係を渡す基盤を扱っています。GraphRAG(グラフ構造を利用した検索と生成)やAWS上の運用条件も対象です。本記事は、PalantirのFunction、Action、業務アプリケーション、権限、Action Logを使った、意思決定から変更記録までの流れに焦点を当てます。
閲覧・変更権限の分離と運用責任
複数の業務やアプリケーションでOntologyを共有すると、定義を変更したときの影響も広がります。そのため、データを接続する前に、「誰が定義を管理するか」「誰が変更を認めるか」を確認する必要があります。
定義への権限と実データへの権限
本記事が参照するプロジェクトベースの権限モデルでは、Ontology resource(Object TypeやLink、Actionなどの定義)への権限と、Objectの実データへのアクセス権限が分かれています。[8]
このモデルは新しいOntologyで有効です。既存のOntologyでは移行が必要な場合があり、Default Ontologyでは利用できないと公式ドキュメントに記載されています。[8]
たとえば、Object Typeの定義を閲覧できても、それだけで個々のObjectの値が見られるわけではありません。Object Typeのセキュリティ設定に応じて、元データへのアクセス権限、またはObject security policy(Objectへのアクセスを制御するルール)の条件を満たす必要があります。
また、LinkやActionを編集する場合は、関連するOntology resourceへの編集権限も必要です。[8] 「構造を確認できること」「実データを見られること」「変更できること」を分けて設計する必要があります。
運用で必要な責任分担
この権限の分離を踏まえ、本記事では少なくとも次の責任を整理します。
| 役割 | 主な責任 |
|---|---|
| Concept Owner(業務定義の責任者) | ObjectとLinkの定義、同じ対象とみなす基準、廃止条件の承認 |
| Logic Owner(計算・判定の責任者) | Functionの計算根拠、バージョン、テストケースの管理 |
| Action Owner(変更手続きの責任者) | 入力、変更対象、実行条件、通知などの付随処理の承認 |
| Security Owner(権限管理の責任者) | Object、Property、Actionに適用する閲覧・実行権限の確認 |
| Application Owner(アプリケーションの責任者) | Workshop(Palantirの業務アプリケーション構築ツール)や独自アプリが使うOntologyの範囲と、変更の影響の管理 |
外部アプリケーションへの変更の影響
Ontology SDK(OSDK)は、Ontologyをアプリケーションから利用するための開発用ツール群です。選択したOntologyの一部をTypeScriptまたはPythonから扱い、外部アプリケーションからObjectの取得、Actionの適用、Functionの呼び出しができます。[9]
利用できる場面が広がる一方で、Ontologyの変更が複数のアプリケーションに影響する可能性もあります。
そのため、ObjectやActionのバージョンを変更する際は、データパイプラインだけでなく、アプリケーションと業務手順も確認する必要があります。ここでいうデータパイプラインは、データの収集・加工・連携の処理です。回帰確認では、変更前にできていたことが変更後も問題なくできるかを確かめます。
試行導入の前提条件と4つの確認観点
PoC(限定した範囲で実現性や価値を確かめる検証)では、最初から全社のオントロジーを設計するよりも、繰り返し発生する一つの意思決定に範囲を絞ると、必要な要素を確認しやすくなります。
たとえば、設備の点検日を調整する業務なら、どの情報が必要で、誰が変更でき、何を記録すべきかを整理します。次の表は、試行導入の範囲を考えるための本記事独自の判断枠組みです。
| 観点 | 検証範囲を考えるための確認事項 | 導入の見送りや前提の見直しを検討する状況 |
|---|---|---|
| 業務対象と関係 | 必要な対象・属性・関係は何か。識別番号、更新元、関係の根拠、データ責任者が明確か | 一つのテーブルや文書だけで業務が完結する |
| 計算と変更手続き | 必要な計算・変更・例外条件は何か。入出力、テストケース、実行条件、変更先を確認できるか | 読み取り専用の分析で要件を満たせる |
| 権限 | 誰が何を閲覧し、実行できるか。代表的な役割ごとに閲覧・実行をテストできるか | 元システムの権限との対応を整理できない |
| 記録 | 判断と変更をどう追跡するか。操作記録、変更理由、関連対象、元に戻す手順を確認できるか | 変更責任者や記録要件が決まっていない |
検証では、画面が動くだけでなく、代表的な判断について次の点を確認する必要があります。
- 判断に必要な現在の状態を取得できること
- 複数の選択肢とその影響を比較できること
- 権限と実行条件に従って変更できること
- 後から判断の根拠や変更内容を追跡できること
どれかが欠ける場合は、対象業務を広げる前に、不足している責任分担や確認材料を補う必要があります。
一方、共通の業務概念を複数のアプリケーションで使わない、データの書き戻しを行わない、関係をたどる検索がほとんどない場合は、より小さな構成も候補です。既存のデータマート(特定の業務や分析向けに整理したデータ)、Semantic Layer、RAG、ワークフロー製品を利用すれば、保守する範囲を限定できます。
Palantir Ontologyを評価する理由は、データモデルを高機能にすること自体ではありません。同じ業務モデルを使って、判断と実行を継続的に運用する必要があるかが、導入判断の軸になります。
まとめ:判断と実行を共有する基盤としてのOntology
Palantir Ontologyは、業務上の対象や関係の定義に、計算、変更手続き、権限制御、業務アプリケーション、操作記録を結び付ける運用層です。
ナレッジグラフやRAGとの違いは、データの表現方法だけではありません。状態の確認、選択肢の比較、条件に従った変更、操作記録を、同じ業務モデルで扱う必要があるかに注目すると整理できます。
検索や読み取り専用の分析で目的を満たせるなら、構成を小さく保つ選択肢があります。一方、複数の業務やアプリケーションで、変更手続き・権限・記録を共通化したい場合は、Ontologyを評価する意味が明確になります。
その判断には、繰り返し発生する一つの意思決定を例に、業務対象と関係、計算と変更手続き、権限、記録の4つの観点を確認することが役立ちます。必要なデータだけでなく、定義や変更の責任を担う体制があるかも、導入を検討するうえでの前提です。
参考文献
以下は原記事の参考文献です。記載年は原記事の表記を引き継いでいます。
- Tom Gruber, Ontology, Encyclopedia of Database Systems, 2009
- W3C, Web Ontology Language (OWL), 2012年12月11日
- Palantir, Overview — Ontology, 2026年
- Palantir, Overview — Action types, 2026年
- Palantir, What is an operational application?, 2026年
- Palantir, Submission criteria, 2026年
- Palantir, Action log, 2026年
- Palantir, Ontology permissions, 2026年
- Palantir, Overview — App building, 2026年
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