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AIと著作権:日本・米国の法制度比較と企業対応

約10分

対象読者: 生成AIを業務利用する企業の法務・知財担当者、AIプロダクト開発者、著作権法の基礎を学びたいビジネスパーソン
前提知識: AIガバナンスとは

AIと著作権は、生成AIの普及とともに多くの企業が直面するリーガルリスクのひとつです。画像・テキスト・コードを生成するAIツールの利用が広がる一方で、学習データの適法性やAI出力物の著作権帰属をめぐる議論は、日本・米国ともに現在進行形で展開されています。[1][3][4]

この記事では、日本と米国それぞれの著作権法の現行規定と最近の動向を整理し、企業が実務として取り組むべき対応をまとめます。法制度は引き続き変化していますので、個別の判断は専門家への確認をあわせてご検討ください。


著作権の基本概念(AI文脈での整理)

Section titled “著作権の基本概念(AI文脈での整理)”

著作権法における「著作物」は、人の思想または感情を創作的に表現したものとされています。日本では著作権法第2条第1項、米国では著作権法(17 U.S.C. § 102)においてそれぞれ定義されています。[1][2]

いずれの国においても、著作権が成立するためには人間による創作的な寄与が必要とされる点は共通しています。AIが自律的に生成した出力物について、現時点では「著作物」として保護されるかどうかが各国で議論されています。[3][5]

AI関連の著作権問題は、大きく2つの文脈に分かれます。

  1. 学習フェーズ: AIの学習に既存の著作物(画像・テキスト・コード等)を使用することの適法性
  2. 生成フェーズ: AIが生成した出力物に著作権が発生するか、発生する場合は誰に帰属するか

この2つの文脈は、法的な論点が異なります。


日本の著作権法では、2018年の改正により情報解析目的の著作物利用について特例が設けられています。[1]

第30条の4(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)は、著作物に表現された思想や感情の「享受」を目的としない、情報解析・機械学習等の目的であれば、著作権者の許諾を得ずに著作物を複製・翻案等できると規定しています。[1]

ただし、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は除外されており、この条件の解釈が実務上の論点となっています。

第47条の5は、情報解析サービス等における軽微な著作物の提供を認める規定で、AIを活用した情報処理サービスの提供についての補完的な根拠として参照されます。[1]

第30条の4により、日本では情報解析目的であれば、原則として許諾なしに著作物を学習データとして利用できます。この点は、明示的なフェアユース規定を持つ米国より条文上は広い許容範囲を示しています。[1][4] ただし、以下の点は注意が必要です。

  • データ提供元のサービス利用規約による制限
  • 著作権者の利益を不当に害する態様での利用(大量取得・再配布等)
  • 技術的保護手段を回避した取得の禁止

現行の日本著作権法において、著作物として保護されるためには「人の創作的表現」が必要とされます。そのため、AIが完全に自律的に生成した出力物は、著作物として認められない可能性があります。[3]

一方、人間がAI出力に創作的な関与(プロンプト設計・選択・編集等)をしている場合は、その人間の著作物として認められる余地があると考えられています。ただし、創作的寄与の程度の判断基準については、2026年6月時点で明確な判例は少なく、解釈が続いています。[3][7]

文化庁は2024年3月に「AIと著作権に関する考え方について」を公表しました。この文書では、AIによる学習・生成それぞれの場面での著作権法の適用関係を整理しており、実務上の参照先となっています。[3]


米国著作権法(17 U.S.C. § 107)は、フェアユース(公正利用)の原則を定めています。フェアユースの判断には以下の4要素が考慮されます。[4]

  1. 利用の目的・性質(商業的か、変容的か)
  2. 著作物の性質
  3. 利用した量と質的重要性
  4. 著作権者の潜在的な市場への影響

AIの学習データとして著作物を利用することがフェアユースに該当するかは、現在進行中の訴訟で争われており、2026年6月時点で確定した判断が確立されているとは言えない状況です。[6][8]

米国著作権局(U.S. Copyright Office)は、著作物の登録に際して「人間による著作者性(human authorship)」を要件としています。

2023年2月の「Zarya of the Dawn」事件では、Midjourney(画像生成AI)が生成した画像部分については著作権登録を認めないという判断がなされました。人間が創作した部分(テキスト等)は登録対象として認められる一方、AIが生成した部分は保護から除外されています。[7]

著作権局は2023年3月に「著作権と人工知能に関するガイダンス」を公表し、AI生成コンテンツが含まれる著作物の登録方針を明示しています。その後も継続的に検討を進め、2024年にかけて追加の方針文書を公表しています。[5]

Getty Images v. Stability AI(2023年〜) 写真素材会社Getty Imagesが、Stable Diffusionの開発元であるStability AIに対して、学習データとして無断で写真を使用したとして英国および米国で訴訟を提起しています。学習データの適法性について争われている代表的な事案です。[8]

The New York Times v. OpenAI・Microsoft(2023年12月提訴) ニューヨーク・タイムズが、ChatGPTの学習に自社の記事が無断使用されたとして提訴しました。訴状では、モデルが記事内容を再現できることを示す具体的な例が複数挙げられており、「変容的利用」の範囲に関する重要な論点を含んでいます。[6]


観点日本米国
AI学習目的の利用著作権法30条の4により原則許容(利益不当害の場合は除く)[1]フェアユース(4要素分析)で個別判断。訴訟継続中[4][6][8]
AI生成物の著作権人間の創作的寄与が必要。現行法上は自律的AI生成物への保護は認められにくい人間による著作者性が必要。著作権局はAI生成部分の登録を不可とする方針
主要ガイドライン文化庁「AIと著作権に関する考え方について」(2024年3月)著作権局「著作権と人工知能に関するガイダンス」(2023年3月〜)
法的確実性条文上は比較的明確だが、判例の蓄積は限定的[1][3]フェアユースの個別判断が中心で、主要訴訟の結果待ちの状況[4][6][8]
訴訟動向国内での大規模訴訟は2026年6月時点で限定的[3]複数の主要訴訟が進行中で、一部の判断が出始めている[6][8]

自社でAIモデルを開発・ファインチューニングする場合、学習に使用するデータの適法性を確認するプロセスが必要です。

  • データの取得経路と利用規約の確認
  • ライセンスが明確なデータセットの優先使用
  • 学習データのソース・取得日時・ライセンス情報の記録

サードパーティのAIサービス(APIやSaaS)を利用する場合も、そのサービスの学習データポリシーを確認し、リスクの所在を把握しておくことが有効です。

2. AI生成コンテンツの利用ポリシー策定

Section titled “2. AI生成コンテンツの利用ポリシー策定”

社内でAI生成コンテンツをどのように扱うかを定めたポリシーを策定することが、リスク管理の出発点になります。

  • AI生成コンテンツの利用範囲(外部公開・商業利用の可否)
  • 著作権表示の方針(人間の創作的関与があるかどうかの記録)
  • 利用するAIサービスの利用規約で出力物の権利がどう定められているかの確認

AIを活用する業務での著作権リスクを契約に反映することも検討事項です。

  • ベンダー契約へのAI生成物に関する保証条項の組み込み
  • 顧客への納品物にAI生成物が含まれる場合の説明・同意
  • 知的財産に関する損害賠償条項の見直し

4. 社内教育・ガイドライン整備

Section titled “4. 社内教育・ガイドライン整備”

実務でAIツールを使う社員が増えるにつれ、著作権に関する基本的な理解を組織全体に浸透させることが重要になります。

  • 著作権の基本と、AIを使う場合の注意点をまとめた社内ガイドラインの作成
  • 新しいAIツールの導入時に法務・知財部門と連携するプロセスの整備
  • 法制度の変化を継続的に把握するための情報収集体制

日本と米国のいずれにおいても、AIと著作権をめぐる法的な整理は進行中です。日本では著作権法30条の4により学習目的の利用について一定の根拠が整備されていますが、AI生成物の保護については解釈が継続しています。米国ではフェアユースの枠組みで個別判断が積み重ねられており、主要訴訟の結果が今後の方向性に影響を与えると見られています。[1][3][4][6][8]

企業が今できることは、学習データのガバナンス整備、AI生成コンテンツの利用ポリシー策定、そして契約・社内教育の見直しです。法制度の変化を継続的に確認しながら、実務対応を段階的に進めることが現実的なアプローチです。

具体的な判断が必要な場合は、知的財産を専門とする弁護士・弁理士に相談することをお勧めします。

関連トピック: 生成AIと個人情報 | 生成AIとプライバシー


  1. e-Gov法令検索, 著作権法, 第2条、第30条の4、第47条の5
  2. U.S. House of Representatives, 17 U.S.C. § 102 - Subject matter of copyright
  3. 文化庁, AIと著作権に関する考え方について, 2024年3月
  4. U.S. House of Representatives, 17 U.S.C. § 107 - Limitations on exclusive rights: Fair use
  5. U.S. Copyright Office, Copyright Registration Guidance: Works Containing Material Generated by Artificial Intelligence, 2023年3月16日
  6. The New York Times Company, Complaint: The New York Times Company v. Microsoft Corporation and OpenAI, 2023年12月
  7. U.S. Copyright Office, Re: Zarya of the Dawn (Registration # VAu001480196), 2023年2月21日
  8. The Verge, Stability AI’s legal win over Getty leaves copyright law in limbo, 2025年11月5日
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